「学校、今日行く！」～教育長の学校日記～

「実践躬行」～大村智先生と「素晴らしい言葉」～

▲農作業を通して自然を学んだこども時代	▲大発見となった微生物の標本
▲多くの人々の命を救った大村先生の研究	▲児童による合唱「素晴らしい言葉」
▲お礼の言葉をお伝えし、花束をお渡ししました	▲大村先生についての本は図書館にもあります

　第三砂町小学校を訪問しました。2015年に「線虫感染症の新しい治療法の発見 」によりノーベル生理学医学賞を受賞された大村智先生が、本校の4～6年生に「私のあゆんで来た道」と題して講演をされるということで、私もお招きいただきました。ご存じの方も多いと思いますが、大村先生は、区内の都立墨田工業高校定時制課程（現墨田工科高校）で昭和33年から5年間教鞭をとられていました。その時の教え子で、今も交流があるという本校の元PTA会長様の計らいで、講演会は実現したそうです。

　また、本日は「大村智ものがたり～苦しい道こそ楽しい人生～」等、大村先生についての著作が複数ある馬場錬成先生も来校されました。児童の中には、その本を読んだり、ノーベル賞や大村先生について調べたりする等、今日に向けて学習してきた子も多かったようです。大村先生が、児童にも分かるように丁寧に、そして1時間立ち続けて話された姿に、私は心を打たれました。もちろん、児童は目を輝かせて、最後まで熱心に集中して話を聞いていました。大村先生は、そんな本校の児童の姿を褒めてくださいました。

　大村先生のお話を聞いていると、祖父母、両親、恩師等、多くの方々から影響を受けた言葉がたくさん登場します。「人には親切にしなさい。そして、人のためになることをしなさい（祖母）」、「人をうらやむことがあったら、努力しておればその気持ちは消える。弱い者いじめは絶対にするな（父）」、「人まねはするな。人まねでは、その人を超えることはできない（スキーの先生）」、「社会に出てからの5年間が勝負（大学の先生）」等々です。まさに「一期一会」、大村先生の人生観が、研究の大きな成果につながっていきます。

　実は、大村先生が研究の道を進んでいくきっかけとなったのが、墨田工業高校定時制課程の教員としての5年間なのです。大村先生は生徒たちが熱心に学ぶ姿を見て、自らも学ばなければと思い、夜は教員として勤務しながらドイツ語を学び直し、大学院にも通われます。その後、大村先生は高校教員を辞め、大学で研究の道へ進まれますが、様々な苦労をされても、人との出会いやいただいた言葉、そして熱い研究心で乗り越えていかれます。そして、ついにアフリカの熱帯地方で流行していたオンコセルカ症に有効な薬を開発し、2億人以上の人の命を救われます。大村先生が研究の成果を見にガーナに行かれた時に、こどもたちに「メクチザン（薬の製品名）を作った人です」と先生を紹介すると、こどもたちが先生をわっと取り囲んでしまったそうです。ガーナのこどもたちにとって大村先生は大恩人なのです。大村先生が大切にされている言葉は、「実践躬行（じっせんきゅうこう）」です。「言うだけでなく、自ら実践すること」という意味があります。大村先生のこの探究心、実践力が、ノーベル賞の原動力になったのだなと感じました。

　最後に、参加した全児童で大村先生に歌をプレゼントしました。「素晴らしい言葉」という歌で、まさに大村先生にぴったりの歌でした。大村先生は、児童の心のこもった歌に感動されていました。また、お礼の言葉を述べた児童は、先に紹介した本を自ら読み、大村先生のことを多くの友達に知ってもらおうと、イラストや見出しを工夫した11ページにもわたる紹介をパンフレットのようにまとめていました。とても見事で、私はそのことにも感動してしまいました。大村先生の偉大さと本校の児童たちの素晴らしさ、未来への可能性を大いに感じた、濃密な1時間でした。ありがとうございました。

（参考：「大村智ものがたり～苦しい道こそ楽しい人生」馬場錬成著＜毎日新聞出版＞）

江東区教育委員会　教育長　本多健一朗