「学校、今日行く！」～教育長の学校日記～

〇か×か、答えは1つなのか、そもそも、その答えは本当に違うのか。

　　

　　

　第五大島小学校を訪問しました。今日、本校は学校公開の2日目でした。青木校長先生にお話を伺うと、「こどもたちは学校公開をとても楽しみにしていました。このような学校公開は3年ぶりなので、3年生の子にとっても初めての経験です。昨日は、おうちの方を廊下で待っていたり、昇降口まで見に行ったりする子もいました」と話してくださいました。私が校内で会う子たちに笑顔が多かったのは、学校公開がこどもたちにとってワクワクすることだったからなのかもしれませんね。廊下でこどもたちの様子を見ている保護者の皆様も笑顔が多かったように思います。

　昨日までの雨も上がり、校内の至る所の緑が鮮やかに目に映りました。本校は平成30年度に現在の新校舎が完成しました。ワークショップで皆さんのご意見をいただき、こどもたちの思いも反映された校舎となっています。校舎の真ん中にはテラスがあり、窓からはたくさんの光が校内に降り注ぎ、明るいこどもたちをさらに明るくしてくれています。

　2時間目の授業を全て見させていただきました。2年生と4年生は算数でしたが、どちらも担任、少人数担当、学びスタンダード強化講師等の先生方が、一人一人を大切にした丁寧な指導をされていました。2年生の算数の授業で印象に残った場面がありました。「780は、どんな数か説明しよう」という学習でした。前の時間に「千・1000」についての学習をしており、この時間では780を「700と80を合わせた数」とか「780は800より20小さい数」等、それぞれに工夫して考えていきます。そんな中、ある子が「780は、ほどほどの数」とつぶやきました。私はすごいと思いました。その子に理由を聞くことはできませんでしたが、前の時間に学習した1000、または800と比べたのかもしれません。算数的ではないのかもしれませんが、上手に言い当てていますよね。680だったら「ほどほど」とは言わなかったかもしれません。「ほどほど」という言葉のもつイメージを、クラスのみんなにも聞いてみたかったです。

　25年以上前の話になりますが、私は作家の故・灰谷健次郎さんとお話したことがあります。灰谷さんは、国語の教科書にも掲載されている（本区使用の教科書ではありません）「ろくべえまってろよ」の作者でもあります。犬のろくべえが穴に落ちてしまい、こどもたちが力を合わせて救出するという物語です。灰谷さんは私に「国語のテストに『ろくべえの落ちた穴はどんな穴ですか』という問題があったらしいんだけど、ある子が一生懸命に考えて〇m〇cmって答えたら（具体的に灰谷さんが言われた数値は覚えていません）、×になったらしいんだよね。僕は〇でいいんじゃないかと思うんだよね」と話してくださったことがありました。本文には「あなは、ふかくてまっくらです」とあり、それが答えだったのでしょう。

　〇か×か、答えは1つなのか、そもそも、その答えは本当に違うのか。学習指導要領総則には、「学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することが求められている」と記載されています。私たちが今、育てなければいけないのは、みんなで知恵を出し合い、心を一つに力を合わせて難題を解決するろくべえを助けたようなこどもたちであり、自分なりの見方や考え方を明確にもち、「ほどほどの数」について、自分なりに説明できるようなこどもたちではないでしょうか。

　今、教育は大きな転換期です。江東区の先生方には、こどもたちが予測困難な時代を生き抜く確かな力を身に付けられる教育、授業をしてもらいたいです。今日は、本校の授業を見て、こどもたちや先生方に可能性を感じることができたいい一日でした。

江東区教育委員会　教育長　本多健一朗